きみだけが
このお話は、「デート・雪の夜」、「デート・長い一日」、「デート・平穏」、イベント「閏色」のイベントストーリー、「デート・遠きあの日」を前提としています。
いずれかを読んでいない場合は、読んでからこちらを読んで頂いた方が良いと思います。
これは、SSというよりは、3年目イベント告知を見た時の「何でレックスくんは教授の誕生日知ってるの???」に対する、私の脳内補完のアウトプットになります。
もしかしたたら、こんな事が幕間にあったかもしれないなという私の願望を反映した妄想になっていますので、それをご認識の上でお進みください。
私:こんばんは、レックスさん
レックス:どうされたんですか。
私:差し入れを持ってきました。
レックス:お預かりしましょうか。それとも直接渡されますか?
私:お願いします。発表の準備も佳境ですよね?邪魔したくないので。こちらが皆さんに、こちらがシモン教授にです。
そう言って、私は手にした紙袋をひとつずつ手渡す。
レックス:いつも自分たちにまでありがとうございます。
レックス:発表といえば、シモン教授から、発表が終わったらその日の午後はお休みされると伺いました。一緒にどこかに行かれる予定なんですか?
私:えっと……
その日はシモンの誕生日だ。
確かに、一緒に過ごすつもりだけれど、シモンは誕生日をあまり他のひとには知られたく無さそうにしている気がするのに、一緒に過ごすと言って大丈夫だろうか。
シモン:行く場所はまだ決まっていないけれど、その日は僕の誕生日なんだ。
どう答えるか迷っていた所に、丁度シモンが現れた。
レックス:あ、シモン教授。そうだったんですね。
シモン:うん、彼女と二人で過ごす誕生日を知ってしまったら、知らなかった頃には戻れないものだよ。
シモン:そういう訳だから、発表の後はよろしく。あと、僕は誕生日は彼女と二人で過ごしたいから、他の人には言わないでおいて貰えるかな。
レックス:わかりました。でも、去年は大丈夫だったんですか?この時期って去年も学会じゃありませんでしたっけ。確か去年はイギリスでしたよね。
シモン:大丈夫だったよ。レックスくんは去年、彼女から学会の日程を聞かれたのを覚えてない?
レックス:あぁ、そういえばそんな事もあったような。
レックス:……あっ!では、自分はこれで失礼します。
レックスさんが何かを思い出したかのように慌てだした。
去年私がこっそり聞いたはずの学会日程、聞かれた事をシモンに話してしまった事でも思い出したのだろうか。
シモン:ちょっと待って、その紙袋、片方は僕のだよね。
シモンは私が持ってきた紙袋を指さしていた。
レックス:あぁ、そうでした。こちらでしたよね?
そう私の方を見て確認するレックスさんは、私が頷くと、紙袋の片方をシモンに渡していた。
研究所の廊下を慌ただしく戻っていくレックスさんをシモンと二人で見送る。
シモン:じゃぁ、帰ろうか。
隣から聞こえた台詞に驚いて見上げる。
シモン:大丈夫だよ。研究所でないと出来ない作業は終わったから。それに、こんな時間にきみをひとりで家に帰す訳にはいかないからね。
家へと続く大通りをまでの道のりを二人で手を繋いで歩いているけれど、どちらからも何も話かけないまま、シモンとの間には沈黙が続いていた。
一緒に居る時でも、お互い別々の事をしていて、沈黙が続く事はよくあるけれど、いまのそれはそんな時の心地よい沈黙とは異なるものだ。
やはり、呆れているのだろうか。
シモン:やっぱり怒ってる……?
やはり謝った方がよいかと口を開きかけた所で、先にシモンから声をかけられた。
大通りとは言え夜道は暗く、はっきりとは見えなかったけれど、見上げたその墨色の瞳はいつもよりも暗く見えた。
私:怒ってる……というよりは呆れてるのはシモンの方だよね?
私:シモンがどんなに準備で忙しくても、私が夜遅くに研究所を訪ねたら、シモンはこうして送らないといけなくなるってわかってたのに……
私:ごめんなさい。
私:本当はこんなに遅くなる予定じゃなかったの。少し仕事が終わるのが遅くなったから研究所に行くのが遅くなってしまったけど、まだこれ位の時間なら大丈夫だと思ったのに、思ってたよりもずっと日が暮れるのは早くなってたみたい……
シモン:何だ。きみが気にしてたのはそんな事だったのか。
シモン:きみを送るのは良い気分転換になるし問題無いよ。
シモン:それに、さっきも言ったけど、研究所でないと出来ない作業はもう終わってるから家に帰っても大丈夫だよ。
シモン:目処もたっているから、きみが持ってきてくれた夜食を食べる時間もとれそうだ。
そういって、シモンは繋いだ手と逆に持った紙袋の方に視線を落とした。
シモン:でも、帰ったら準備を再開してしまって、うっかり食べ忘れてしまうかもしれないから、誰か監督していくれる人が必要かもしれないな。
そう言って、私の顔を覗き込むシモンの顔は、いつもの私をからかう時の笑顔だった。
シモン:てっきり、僕は、僕の誕生日を知ってるのがきみだけでは無くした事について怒っているのかと思ってたよ。
私:え?そんな事ないよ。だってシモンの誕生日だもの。
私:私からは誰かに言わない方が良いのかと思ってはいたけど、シモンが他の誰かに言うのは問題ないと思う。
シモン:そう、それなら良かった。
シモン:僕は”きみと二人だけの秘密”にしておきたかった気もしてたんだけどな。
私:じゃあ、どうしてレックスさんには教えたの?
シモン:それは、知っておいて貰った方が格段に仕事の調整がし易くなるからね。
シモン:誕生日は、また来年も、再来年もある訳だし。
シモン:それに、もうきみは、僕の誕生日を知っているのが、世界中できみ一人ではなくても、僕の誕生日を僕と二人でお祝いしてくれるでしょう?
私:……来年は、研究所中のみんながシモンの誕生日をお祝いしてくれて、二人で過ごすなどころじゃないかもしれないよ?
シモン:大丈夫だよ。レックスくんは……ちょっと僕に対しては口が軽い所があるけれど、別に誰に対してもそうな訳じゃない。
シモン:僕が他の人には言わないようにと言ったら、他の人には言わないよ。
確かに、シモンに隠し事をするのは凄く難しい。
私にとってそうであるように、シモンの助手であるレックスさんにとってもそうなのかもしれない。
シモン:だから、来年も再来年もその次も、僕の誕生日を僕と一緒に祝ってくれるのは、きみだけだ。
という事で、この脳内補完は、レックスくんがシモンさんの誕生日を知っているのは、以前とは違い、主ちゃんがずっと自分の誕生日をお祝いしてくれるという事をシモンが信じられるようになったからだったらいいなという願望と解釈によっています。
いつまでも二人で幸せな誕生日を過ごせることを私も信じています。
シモン今年もお誕生日おめでとうございました!
